平々凡々

ぶたの絵や文章をかく人です。

例えば

 

タバコを始めて吸った日のことはよく覚えている。

東京で派遣の仕事をしていたときのことだ。

 

派遣仲間との飲み会の席で、お姉さんの吸ってる姿を見て興味が湧いた。実はそれまで忌み嫌いながらも、ずっと少し憧れだった。初めて吸ったタバコはスースーした。カプセルを噛むんだよと教わった。

2個のカプセルを噛むそれは、なぜか父の匂いがした。それを吸った自分は少しだけそんな社会に認められている気がした。

 

そんなちょっとした好奇心と憧れだった。

でも、長くは続かなかった。おいしくはない。服や髪に匂いもつく。

すべてがイケスカナイ。

 

でも、嫌いにもなれなかった。

 

そのあと、また吸い始めたのは、尾道に来てから、周りに多く吸う人がいたから。

兄が吸ってたから、あの人が、あの子が、あなたが、吸っていたから。

 

安いからと買ったHOPEは、本数を考えたら高かった。

なんとなく買ったラッキーストライクは、燃焼が早くて一瞬で消えた。

彼が吸ってたのを思い出して買った黄色のアメスピは苦かった。緑のアメスピもまずかった。

兄の真似をして買ったハイライトは1番合わなかった。

他にも色々、人からもらったタバコは、全部なんだか合わなかった。

結局割高なHOPE1番好きだった。

 

 

タバコを吸うことで知ったこともあった、出会えた人と言葉と時間があった。

 

シケモク拾いのおじさんと出くわして、2本せがまれたこともあった。

結局渡したのは1本だったけれど。

 

やめようと思った。百害あって一利なし。

友達の家に酔っ払って投げ捨ててきたときもある。結局やめられなかったけれど。

 

一応最後と決めた一本は、いつものあそこで、吸うことにした。

一本を大切に、だがやはり、投げやりに吸った。

決めたならとことんと。ライターと共に捨ててしまおう。

 

くゆる煙とそれがもたらしてくれる時間は、色んなことの言い訳にもできる。

 

大人として認められたかったから、東京の街に馴染みたかったから、描く漫画の登場人物にタバコを吸わせたかったから、ひと区切りつけるため、なんとなくかっこつけるため、あの子があの人が吸っていたから。

 

待ち時間の有効活用と思ったが、実は時間の無駄だったような気もする。

 

似合わないことは、誰に言われるまでもなく、私が一番知っている。

 

描いた漫画がくだらなかったことも。