今日あるいはあの日の日記
「死のうとしたことある?」
と聞かれた。
「あるよ」
と答えた声はうまく出せていただろうか。
一気に記憶が蘇る。
新卒で入った会社を辞めてすぐ、とりあえず実家に帰った。
帰っていながら、普通なそぶりで、でもどこか気遣うような、よそよそしい態度をとる家族と顔を合わすのがしんどかった。
食事が喉を通らず、お粥をさらにドロッとさせたおもゆも少量しか摂ることができない。食べてもすぐ出してしまう。「こんな自分がご飯を食べるなんておこがましい」と当時は本気でそう思っていた。
初夏だった。
実家に生える木々の青々しさが苦々しかった。
昼間はまだ良い、夜になると実家に生えている木々が妖怪のように見えてくる。高校卒業まで見慣れた庭の木だったはずなのに、その晩、風に揺れる木々は何故か自分を責め立てているように感じた。
「無責任」
だと。
気づいたら台所に立っていた。1番大きな包丁を喉に突き立てて、目を瞑った。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
刺せなかった。から今これを書いている。
包丁を元あった場所に差し戻して、そんな自分も嫌でその場に泣き崩れた。
その時、どうしようもなく、ただ、自分の命を終わらすことができなかった。
その後も死のうとしたことは何度もあった。
住んでいたアパートの窓から、職場の窓から、横断歩道、歩道橋、駅のホーム……
それでもあの日のあの台所で死ねなかった私が、後の私の命を繋いだ。
「死のうとしたことある?」
あるよ。でも今生きているよ。